遺言と異なる遺産分割はできるか?
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”遺言と異なる分割は全員で行う”
相続後に遺言書を開いてみたら、相続人の希望と違う内容が記載されていることがあります。
このような場合、遺言を撤回して全く異なる内容の遺産分割はできるのでしょうか?
遺言と異なる遺産分割は次のときに認められます。
◪遺言の中で遺産分割が禁止されていない
遺言では5年間、遺産分割を禁止することができます。
遺言の中にこの規定がある場合は、定められた期間内は遺産分割を行うことができません。
◪相続人及び受遺者全員が合意する
当事者である相続人、受遺者(=遺言による財産の承継人)の全員が遺言の内容を知ったうえで、遺言と異なる遺産分割に合意する必要があります。
◪遺言執行者が同意する
遺言執行者は遺言内容を実現する職務を負っているため、遺言執行者が就任しているときは、遺言執行者の同意も得る必要があります。
このように遺言がある場合でも、当事者の全員が合意することにより違う内容の遺産分割を行うことができます。
不動産の登記手続き上の注意点
遺言と異なる遺産分割は上記の要件を満たせば行うことができますが、不動産の場合は注意点があります。
相続人の希望
甲土地を長男3分の2、次男3分の1の割合で相続したい
登記の注意点
一旦各2分の1の割合で名義変更を行い、その後、交換、贈与等を原因として次男から長男への持分の譲渡を行うという2段階の手続きを行う必要があります。
「甲土地を」というように特定の財産を明示して遺言をした場合は、個別の財産の「遺産分割方法の指定」と解され、相続発生と同時に遺産分割が完了したとみなされます。
このため、一旦相続した持分について別途譲渡がなされたという構成になります。
相続人の希望
甲土地を長男3分の2、次男3分の1の割合で相続したい
登記の注意点
この場合は、遺産分割により直接、長男3分の2、次男3分の1の割合で登記できるものとされています。
「全財産を」というように包括的な記載は「全体の相続割合の指定」と解され、個別の財産の分割内容は遺産分割協議で決めることになります。
このように不動産の登記手続きは遺言の文言により手続き内容が異なってきます。
ただし、上記のケースで、遺産分割協議書を作成するのか別途譲渡契約書を作成するのかなど、具体的な手続き方法は法務、税務の事前確認をしたうえで決める必要がありますので、手続きを行う際には司法書士・税理士にご相談いただき手続きをお進めください。
税務上の注意点
相続手続きの難しさは、同じ事実でも法務・税務で判断が異なることがあることです。
上記のケースで登記上「相続」または「贈与」として登記を行ったものが、税務上も同じように評価されるとは限りません(このケースでは、税務上はいずれの場合も「相続」として評価され、例外的に個別の事情があるときは「贈与」として課税がなされます)。
このようなイレギュラーな手続きを行う際には税理士だけ、司法書士だけに相談して進めるのではなく、税理士・司法書士間で連携を取っていただきながらご相談ください。